【インタビュー】経済政策から考える女性活躍推進と「なでしこ銘柄」の役割とは

女性活躍推進にすぐれた取り組みをする企業を選定する「なでしこ銘柄」など、企業のダイバーシティ経営を後押しする事業を次々と打ち出している経済産業省。2018年は48社の企業が「なでしこ銘柄」に選出され、女性活躍がもたらす経営効果にも注目が集まっています。

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そもそも経産省が女性活躍推進、ダイバーシティに力を入れているのには、どんな背景があるのでしょうか? 
経済社会政策室長の小田文子さん(写真中央)に、現在注目が集まる「なでしこ銘柄」のこと、その背景にある女性活躍推進への強い思い、そして今後のビジョンを伺いました。

 

女性活躍推進は、経済のプロが考える最重要課題!

 

<プロフィール>

経済産業政策局 経済社会政策室長

小田 文子氏

津田塾大学学芸学部英文学科卒業。日本企業における女性活躍推進、ダイバーシティ経営の推進を担当。女性リーダー育成、女性起業家等支援ネットワーク構築事業等にも携わる。

 

経済産業省で「なでしこ銘柄」をはじめとしたプロジェクトを推進するのは、女性を中心としたチームのみなさん。経済産業政策局 経済社会政策室長の小田文子さん、島田真知子さん(写真左)、眞家恵美さん(写真右)さんとテーブルを囲み、なごやかな雰囲気のなかでインタビューが始まりました。

「私たちが女性活躍推進、ダイバーシティの浸透、深化につとめているのは、成長戦略の一環としてはずせない、という認識があるからです。近年、社会をめぐる環境は劇的に変化しています。とくに国際競争の激化は顕著ですね。国内市場で勝負してきた企業も、今後はグローバル市場での競争に巻き込まれていく可能性が高い。産業構造の変化も加速化し、企業の再編、異業種との協働などが柔軟におこわなれるようになってきています。こうした変化の時代を、従来型の年功序列、男性中心、長時間労働を強いる人事体制で乗り切れるだろうか? ということなんです。

それに加え、日本独自の課題としては、少子高齢化の現実があります。今後、ますます生産年齢人口が減っていくなか、日本経済の成長力を底上げしていくためには、女性をはじめ、シニア、障がいを持つ方など、多くのかたが自分の能力を生かして働ける社会に変わっていくことが不可欠です」
小田さんは、ダイバーシティが人権的な側面のみならず、「経済成長」「成長政略」の点からも切実な課題となっていることを指摘します。なかでも日本の人口の半分を占める女性が活躍できる土壌づくりは、経産省としても第一に力を入れるべき最重要課題、という位置付け。

「国をあげての取り組みも功を奏して、女性の就業率は直近の数値で過去最高の70.0%に(総務省「労働力調査」2018年8月)。出産・育児にあたる20代後半から30代の就業率が落ちる、いわゆるM字カーブも解消されつつあります。ただし、その内訳を見てみると、女性の多くが非正規雇用であること、また女性の管理職、役員の割合が諸外国と比べてもダントツに低いことなど、解決すべき課題もまだまだあります。」

(出典:「平成30年版男女共同参画白書」内閣府男女共同参画局

 

女性活躍推進の鍵は、経営トップ層の本気度!

 

女性が生き生きと働ける社会づくりに向け、女性を含む多様な人材の登用をバックアップする取り組みを進めています。そのなかでも特に積極的に進めているのが、企業における女性管理職、女性役員登用の支援です。
「人材育成は一朝一夕でできるものではないため、女性管理職を増やしたい、女性役員を登用したいと思っても、社内で人材が育っていないというケースも。こうした課題は多くの企業から聞かれます。そこで、まずは上場企業が守るべき行動規範を示した『コーポレートガバナンス・コード』において、取締役会にジェンダーや国際性の面を含む多様性を備えることが重要である、ということが加えられました。『コーポレートガバナンス・コード』は法令とは異なり、罰則規定はありませんが、多くの企業がこのコードに沿って改革を進めている最中です。
また、政府としては、社内だけでなく、社外からも多様な人材を登用できるようにと、人材のデータベース化にも取り組んでいます。『はばたく女性人材バンク』の名で、企業が女性役員を外部から登用したいと考えたときの参考になる情報を提供。また、役員として活躍するための意識づけ、必要な知識を身につけるための『女性役員育成研修』も行っていて、こちらも修了者をデータベース化して紹介しています。多くの企業に活用していただたきたいですね。
こうした事業を進めるなかで小田さんが痛感しているのは、トップの本気こそが女性活躍推進の起爆剤になる、ということ。
「指針が出されたから、環境的にやらなくてはいけないから、ということでは、従業員にも響きません。成果を上げている企業の例を見ても、やはりトップがどれだけ女性活躍推進、ダイバーシティ経営の真の意義を理解し、そこに本気を出しているか、が問われていると感じます。女性が活躍することで、企業はもっと強くなる、競争力が上がるんだ、ということがもっと浸透していかないといけませんね。私たちはダイバーシティ経営に取り組む“トップ・オブ・ザ・トップ”の企業を『100選プライム』として選定していますが、たとえば平成29年度に選定されたカルビー株式会社は、松本晃前会長が着任されてから、急激に女性活躍推進の動きが高まりました。経営層がその必要性を正しく認識し、全社を巻き込んでいくことが大切です」

 

女性の活躍度が企業をはかる重要な物差しに

ミレニアル世代の人材は、就職先を選ぶ際に、「多様性、平等性、また多様な人材に対する受容性について、企業がどんな方針を持っているかを重要視している」、という調査報告があります。

(出典: 「ミレニアル世代の女性:新たな時代の人材」PwC, 2015)

 

「経産省では、リクナビの合同企業説明会などで『なでしこ銘柄』をPRするブースを出展しています。初めて出展したのは平成28年度末でしたが、回を追うごとに興味を持ってブースを訪れる学生が増えていることを感じます。女子学生だけでなく、男子学生にも、女性活躍推進、ダイバーシティ経営の方針に重きを置いている人が増えている、というのもうれしい驚きです。ワークライフバランスの実現、柔軟な働き方、風通しのよい企業風土、ということを考えたときにも、率先してダイバーシティ経営に取り組む姿勢があるかどうか、が求職者に評価される大きなポイントになる、ということが見えてきますね。

こうした観点からも、企業が情報を開示していくことは非常に重要です。たとえば『なでしこ銘柄』はどんな基準で選定されているのか、そして選ばれた企業はどんな取り組みをしているのか。情報がきちんと公表されることが、見せかけだけでなく、実態を伴った女性活躍推進、ダイバーシティを後押しするものになるはずです。取り組みが資本市場や労働市場に評価されれば、企業にとっては資本や優秀な人材を集めることにもつながります」
経済産業省では「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン」を策定しており、「なでしこ銘柄」の選定では、ガイドラインに示される7つのアクションについて、各社の実践状況、開示状況を調査。女性活躍推進を経営課題と捉え、実のある施策を進める企業が評価される仕組みが構築されています。

 

<ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン 実践のための7つのアクション>

(出典:「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン改訂版」 経済産業省,2018)

 

女性の取締役がいないなど、海外でのスタンダードに満たない企業については、投資家からNOがつきつけられる時代。国際間競争という点でも、情報開示の必要性は高まっています。 ただ、情報開示については、まだまだスピードが遅く、思ったように進んでいない現状があるそう。
「経産省としては、資本市場、労働市場から開示が求められる情報の一覧を作成し、広く伝える努力をしているところです」
企業の競争力アップ、誰もが幸せに働くための「働き方改革」、さらにはジェンダーギャップを埋め、平等な社会をつくっていくこと。女性活躍推進には、さまざまな側面があり、そのどれもが今、同時並行で進められようとしています。 「ダイバーシティを深化させるためには、経営陣、現場、そして外部とのコミュニケーションを三位一体で取り組まないといけない。今、本気にならなくては、世界的な流れに取り残されてしまうという危機感があります。ただし、女性活躍推進もダイバーシティも、これという特効薬があるわけではない。継続的に取り組み、繰り返し発信し続けていかなくてはいけないものです。取り組みの初期には、一時的に混乱したり、業績が落ちることもあるかもしれません。それでも粘り強く取り組み続けていく強い覚悟と信念が必要です」
国、企業、労働者、それぞれの意識が大きく変わりつつある今。多様な人材が自律的に働ける社会にむけて、それぞれの地道な取り組みが求められています。 経産省が選出する「なでしこ銘柄」は、この流れを加速する一助となるもの。実際に、なでしこ銘柄に選ばれた企業48社は、投資家からも注目され、市場価値が高まっています。なでしこ銘柄企業の活躍により、女性活躍が経営にもたらすメリットが周知されていくこと。そして多くの企業が「なでしこ銘柄」をめざして改革を進めていくことに期待しましょう!

 

撮影/鈴木江実子 取材・文/浦上藍子